Japanese American Issei Pioneer Museum
日系一世の奮闘を讃えて

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物語 - 一世関係
18 - 上を向いて歩こう - 竹村義明

上 を 向 い て 歩 こ う - 竹村義明

1963 年 6 月   (オレゴン州オンタリオ 仏教放送より)

上を向いて歩こう   涙がこぼれないように   思い出す春の日    一人ぼっちの夜

上を向いて歩こう   にじんだ星を数えて    思い出す夏の日    一人ぼっちの夜
幸せは雲の上に    幸せは空の上に      上を向いて歩こう    涙がこぼれないように
泣きながら歩く    一人ぼっちの夜
       ( 口 笛 )
思い出す秋の日    一人ぼっちの夜       悲しみは星の影に   悲しみは月の影に
上を向いて歩こう   がこぼれないように     泣きながら歩く    一人ぼっちの夜
一人ぼっちの夜

この歌を聞かれたことがありますか。これがその「スキヤキ」です。日本では「上を向いて歩こう」という名ですが、アメリカでは白人の良く知っている日本料理の名をとって「スキヤキ」という題で売られています。日本人が作り、日本人歌手、坂本九が歌っているこの歌が、今アメリカのいたるところで歌われているのです。不思議な事もあるものです。これが今全米で二番目に人気のある歌なのです。一世の方々にとっては、キツネに鼻をつままれたような話ですが、うそではありません。白人社会の中にあって数多くの迫害と排斥に遇い、白人の前では日本語をしゃべるのをはばかった時代とくらべると、誠に隔世(かくせ)の感がいたします。白人のところで堂々と日本語の歌が通用する時代にと変わってきたのです。日本語を白人の前で大きな顔をしてしゃべれるどころか、目の青い白人までが、訳も分からないのに日本の歌を歌っているのです。このような時代のはげしい移り変わりに全く驚かされます。昨日の敵は今日の友といいますが、アメリカにおける日本人の過去を振り返るとき、全くこの言葉がぴったりします。

さて、このような変化がどうして起こったのでしょうか。勿論、戦争後の日本とアメリカの政治的な影響もあるでしょうが、私はアメリカに住む日系人の努力も見のがせないと思います。苦しい中にも、じっと我慢をして笑顔を忘れず、明日を信じて今日の日米友好に努力された皆さま一人一人のお蔭と思います。先日テレビでゴー・フォア・ブロークという二世部隊の映画を見ましたが、日本で見た時とは全く違った印象を受けました。何故なら、このアメリカに来て、イタリヤやフランスの戦場へ我が子を送った人達の顔を見て、どれほどか大きな犠牲を払われたかを身近に知る機会を得たからです。息子を兵隊に出したり、強制立ち退きでキャンプに入ったり、排斥をうけたりしながらも、常によきことは良い報いを受けると信じて正しく生きて、アメリカの人達に良き感じを与えて下さいました。

大きな顔をして街を歩くことができるのも、アメリカ人をお友達にできたのも、日本の歌をラジオで聞けるのも、みな皆さまのお蔭です。私はこの「スキヤキ」の歌を一世の皆さまが声高らかに歌ってほしいと思います。この歌は日米親善のしるしでもあり、同時に皆さまの努力のたまものです。アメリカ人が日本の歌を歌うという今まではほとんど不可能なことを、皆さんはやりとげたのです。

竹村義明    1963 年 6 月    (オレゴン州オンタリオ 仏教放送より)

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